今月の言葉1
2018.12.26
現世だけの絆に、 荒廃の陰りが見えてきたのは、 死者たちとの思い出をなくしたからではないだろうか。
石牟礼道子
石牟礼さんが子どものころの水俣では、人が死ぬと、「無常の使い」と呼ばれる使者が縁者の家を回ったという。
「お果てになりました」「仏さまになられました」と口上をおろそかにしてはならない。
男も女も仕事を休んで葬儀の準備を行い、子供たちには「無常のごちそう」がふるまわれた。
家族だけでなく、村の共同体すべてが葬儀に参加し、つかの間の生死の共同体を共にしてい「死者たちは生者たちに、おのが生命の終わりを餞に残して逝くのである。葬儀はその絆を形にしたものだった」。
石牟礼さんは90歳の生涯を尽くされ、2018年2月にお果てになった。死者の言葉として今、生きてはたらく。
『無常の使い』(藤原書店)より
(溝邊伸)