相手を思い返す現在の自分の中に、亡き人は生きているのです柳田 邦男

朝日新聞(2020年12月3日)のインタビューより。

 

コロナ感染症の対策のために、医療機関や福祉施設では面会が規制される中、家族と一度もあえないまま死別する例が多くなっている。

 

突然の死別に、あいまいな喪失感を抱き葛藤に苦しむ家族を取材してきたノンフィクション作家の柳田氏は、「その場で手を握り、体をさすり、耳元で声をかける。ぬくもりが言わば『心の血流』となって伝わります」「コロナ患者を受け入れた病院が感染防止だけを考えるなら、患者と会いたい家族は邪魔になる。科学主義を突き詰めればそれが結論です。でもたとえ重症化した人でも、ウイルスと治療の拮抗関係の中にだけ生命があるわけではない。医学的な命とは別に、家族や恋人など人間関係による心の営みが生きる上で不可欠です」と語る。

 

表題の「相手を思い返す現在の自分の中に、亡き人は生きているのです」という言葉は、インタビュー後半で死者との関係性のことを語られたくだりであるが、医学や科学のものさしで語られる「生命」だけでなく、様々な関係性や心の中にある他者のぬくもりによって、割り切れない、そして時代や空間を超えた「いのち」があることを想う。

 

感染対策と、人間同士の営み。そのはざまで揺れた2020年であったのではないだろうか。

(溝邊伸)

MONTHLY

今月の言葉

今月の言葉27

日本でも哲学者として有名なカントは1724年に東プロシアの首都ケーニヒスベルク(現在のロシア領カリーニングラード)に生まれ、1804年に衰弱死によってその生涯を終えました。彼の生まれた時代はヨーロッパの各地でひっきりなしに戦争が起きていました。71歳のカントが『永遠平和のために』を著したその背景にはやむにやまれぬ思いがあったことでしょう。 2022(令和4)年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻を開始しました。当初、この原稿を書く頃には戦争は終わっているものだとばかり思っていました。それはロシアやウクライナ、さらにはその他の諸外国も同じ思いだったかもしれません。しかし実際には戦況は長引き

詳しく読む

MONTHLY

今月の言葉

今月の言葉26

人間は死を抱いて生まれ、死をかかえて成長する 『信國淳選集』第六巻「第一部浄土」柏樹社 私たちは誰もが「生まれたものは死に往くもの」とは知っていても、死を抱えて生きているという実感がないのが事実です。死はこの身において成熟するものと言われますが、まことにその通りだと言わねばなりません。 私はこの歳になって初めて老眼を体験しました。まさに我が身が老いゆくもの死にゆくものであるという事実を突きつけられました。まさに死を抱えて生まれてきたという事実を分かったつもりでいる人間的未熟さを感じずにはおれませんでした。 人間は、いつまでも生きたいとおもう心によって死を逃れようとし、若

詳しく読む

MONTHLY

今月の言葉

今月の言葉24

最近、私はSNSを通じて他宗の友人が増えました。その中で浄土宗の方と話す際に法然上人の一枚起請文を改めて読み直しました。法然上人が亡くなる直前に記され、弟子の勢観房源智に授けた文ですが、法然上人の御言葉でありながら、私は親鸞聖人と蓮如上人を思うのです。 「親鸞におきては、ただ念仏して、弥陀にたすけられまいらすべしと、よきひとのおおせをかぶり(蒙)て、信ずるほかに別の子細なきなり。」 (『真宗聖典』627頁 「歎異抄」第二条) 「ただ一念に弥陀をたのむ衆生は、みなことごとく報土に往生すべきこと、ゆめゆめうたがうこころあるべからざるものなり。」 (『真宗聖典』835頁 「御文」

詳しく読む