[今月のコラム]さわり
2025.05.01
「さわり(障り)」という言葉を辞書で調べると、「物事の障害、差支え、支障・妨げ」などと出てくる。私たちの日常生活の中では、自分にとって都合の悪い妨げとなる事柄は次々と起こってくる。それをいかに回避しようかと毎日悪戦苦闘しているのが私たちの日常ではないだろうか。そのような中でも最も避けたい「さわり」は、やはり「老・病・死」ということであろう。
雅楽の楽器で「笙」という楽器がある。この楽器は17本の竹から出来ている。息を吹き入れたところに、銅の合金で作られたリードという部分がある。この笙という楽器は、そのリードを震わせながら綺麗な音を出すのだ。笙の奏者は言う。「このリードという”障り”がこの笙の音色を豊かに、素敵にしてくれるのです」と。
それは、老・病・死という人生において最も避けたい「さわり」が、むしろ人生を豊かにしてくださる大切な事柄なのではないかと問いかけられているようだ。多くの人は、病気で入院した時、これまでの人生を振り返り、改めて、今後の人生を丁寧に生きようと心するものではないだろうか。…「さわり」が転じて人生に「恵み」をもたらすこととなるようだ。そのように、私にとって都合の悪いあらゆる”さわり”は、新たな人生のスタートの機縁となったり、私を育ててくださる大切なご縁となるのではないだろうか。